【心理学と認知科学】感情とは一体何なのか?

生徒
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怒ったり悲しんだり笑ったり、人間の感情ってよく考えると不思議。心理学では感情ってどう考えられているんだろう?

こういった疑問にお答えします。
この記事を書いている僕は大学院で心理学を専攻しています。

感情とは?

結論をいうと、心理学では感情についてよくわかっていません。

たとえば、有斐閣の心理学辞典には「感情は誰でも知っているが、誰も定義は知らない概念である」と記載されています。確かに「感情って何?」と聞かれるとなんとなくイメージはつきますよね。しかし、「感情の定義は何?」と聞かれるとよくわかりませんね。

また、感情と似た用語に情動がありますが、同書には「情動は動的な側面を表すもの」という記載があります。動的な側面とは何なのか、よくわかりませんよね。

ちなみに有斐閣の心理学辞典は数ある辞典の中で、最も信頼性が高く情報量の多い辞典です。このような辞典ですら感情の定義が曖昧なのですから、心理学では感情について、イマイチわかっていないと言えるでしょう。

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心理学での感情研究

心理学では「感情とは何か?」イマイチわかっていないということをお伝えしました。

では、感情について心理学では全く研究されてこなかったのかというとそんなことはありません。それなりに研究されてきました。そこで、心理学での感情研究の流れを簡単にお伝えします。

ダーウィンの研究

現在の形での感情研究の基礎になったのがダーウィンの研究です。ダーウィンは進化論で感情を捉えました。

彼の説は『人及び動物の表情について』という本に詳しく記載されています。ダーウィンは簡単にいうと、現在私たちに残っている感情は自然淘汰の結果であると考えたのです。

要するに、進化の過程で必要だったから感情は残ってきたという考え方です。

たとえば、恐怖や不安はうつ病の原因などになりますし、現代人にとって厄介なものです。ですが、原始時代の人間にとっては恐怖心や不安は必要なものだったと考えられます。目の前で仲間がライオンに食べられていても何の恐怖も感じないならば、いずれ自分も食べられてしまう日がくるからです。

そして、そんなことが繰り返されると人間の数が少なくなり、種の保存ができなくなりリスクがあります。だから恐怖や不安といったネガティブな感情は残ってきたわけです。これがダーウィンの理論です。

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ジェームズ・ランゲ説 / キャノン・バード説

次に、ジェームズ・ランゲ説とキャノン・バード説について説明します。この2つの学説は心理学を勉強している人なら一度は聞いたことがあるかもしれません。

まず、ジェームズ・ランゲ説(情動の抹消起源説)とは「泣くから悲しい」という言葉に代表されるように、生理的反応が感情を生み出する説です。涙が出るから人は悲しいのだという考え方です。もう一つ例を挙げると「震えるから恐ろしい」などです。「恐ろしいから震える」のではないというわけです。

一方、キャノン・バード説はその逆です。「悲しいから泣く」という言葉に代表されるように、外部刺激の情報が中枢神経に到達することにより感情が生じるという考え方です。簡単にいうと、感情が生じてから生理的反応が生じるという考え方です。私たちが一般に理解していることですね。「悲しくなったから泣く」という考え方です。

シャクターの情動の2要因説

感情研究において最重要なのがシャクターの情動の2要因説です。1962年のシャクターとシンガーによるアドレナリン(興奮作用)を用いた実験による学説です。

この実験では、参加者はアドレナリンを投与された群と生理食塩水を投与された群に分けられました。また、アドレナリンを投与された群は、さらに効果について説明を受けた群と説明を受けなかったか、誤った説明を受けた群に分けられました。

加えて、サクラに参加者の前で参加者を怒らせる言動をさせました。その結果、説明を受けた投与群は怒り生理的興奮が低く、説明を受けなかった投与群は怒り感情が強まりました。この実験結果は感情が生理的反応+認知で生じるということを示しました。

もう少し深掘りしていきましょう。

注目すべきはアドレナリンを投与された2つの群です。アドレナリンを投与された群は、どちらもアドレナリンの作用により身体的興奮が生じます(生理的反応)。目の前でサクラが参加者を怒らせたのも同じです。何が違ったかというと、アドレナリンについての説明を受けていたかどうか?です。

アドレナリンについての説明を受けていた群は「自分に生じた生理的興奮はアドレナリンのせいだ」と感じたわけです(認知)。一方、アドレナリンについての説明を受けた、もしくは誤った説明を受けた群は自分に生じた生理的興奮の本当の理由はわかりません。なので、サクラに扇動された怒りが理由だと考えたことでしょう。

つまり、感情とは生理的反応をどう解釈するかで生じるものなのです。

ダットンとアーロンの吊り橋実験

他にも情動の2要因説を支持する研究結果が1974年に示されています。

この実験では参加者は男性で、揺れる吊り橋を渡る群、揺れない吊り橋を渡る群に分けられました。実験中どちらも中央で女性がアンケートを取り、結果に関心があるなら後で電話をしてくださいと伝えました。その結果、揺れない吊り橋群からの電話は少なかった一方、揺れる吊り橋群からの電話は多かったのです。

これは一般に揺れる吊り橋の緊張感が恋愛感情に繋がったと考えられています。吊り橋を渡ることにより緊張(生理的反応)が生じ、それを女性に対する恋愛感情と解釈(認知)したというわけです。

ここでも感情は、生理的反応をどう解釈するかで生じていることがわかります。感情は、①生理的反応、②認知、の2つで生じるのです。

ポール・エクマンの研究

ダーウィンから始まった感情研究は、近年のポール・エクマンの研究に繋がります。ポール・エクマンはアメリカの心理学者で、表情分析学の創始者です。

エクマンはダーウィンの『人及び動物の表情について』から多大な影響を受けています。エクマンの功績はいろいろありますが、特に基本感情の特定と微表情の発見が挙げられます。最初にお伝えしたとおり心理学研究における感情の定義はイマイチ定まっておらずフワフワしたものです。

これは感情の範囲が研究者や文化的背景によって異なることによります。エクマンはこの曖昧な感情の範囲を6つに絞りました。具体的には幸福・驚き・恐怖・怒り・悲しみ・嫌悪です。エクマンはパプアニューギニアまで足を運び、未開の土地の人々にもこれらの感情(表情)が認識できることを示しました。つまり、これら6つの感情は人類に共通するものであることを明らかにしました。

エクマンのもうひとつの功績は、微表情を発見したことです。微表情とはコンマ数秒だけ現れる本当の表情のことです。エクマンの著書『暴かれる嘘』では、メアリーという精神疾患で入院していた人物の笑顔にわずかに浮かんだ悲しみの微表情を捉えて、自殺を防いだことが書かれています。現在、この微表情研究は空港でのテロリスト対策などに応用されています。

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感情とは本当は何なのか?

ここまで感情に関する心理学研究をお伝えしてきましたが、結局、「感情とは何か?」という問いの答えはよくわかりませんよね。そこで、認知科学研究の力を借りて「感情とは何か?」についての結論をお伝えします。

前提として認知科学とは1970-1980年代に成立した人間の知を研究する学問です。1977年から学術誌 Cognitive Science が発刊されています。1950年代の人工知能研究が心理学に持ち込まれたのがきっかけです。認知科学がカバーする範囲は広く学者の立場によって色が変わるのもこの学問の特徴です。

具体的には心理学・神経科学・計算機科学・言語学・文化人類学などが認知科学を形成しています。その中でも中心をになっているのは人工知能関連の学問と神経科学(≒ 脳科学)です。心理学も認知科学を構成する要素ではありますが、実際は全くの別の論理で動いている学問です。

心理学との違いとして、認知科学では感情と情動を明確に分けています。

感情は情動発生に伴う主観的な意識体験で本人にしかわからないものです。一方、情動は外的刺激や内的記憶の想起に伴って個体に生じる生理的反応のことで、客観的に計測可能なものです。この情動は内臓から生じる生理的なものです(内臓運動皮質が内臓の制御を行い、その結果生じる内臓設定値の変更によって情動は生じる)。

感情は、①内臓の状態を知らせる自律神経反応を脳が理解し、②その反応が生じた原因の推定、この2ステップで生じるものです(下図参照)。

 

これをもう少し詳しく解説すると、情動(生理的反応)からのフィードバックと内臓運動皮質(前帯状皮質・眼窩前頭皮質)の情動を介したフィードバックに対する予測を、島皮質が比較検討することで私たちは感情を生み出しているということになります。

つまり、予測と生理的反応の比較検討(この誤差を予測誤差と呼ぶ)が感情(主観的感情)を生み出しており、その元になっているのが内臓活動です。

内臓活動からのフィードバック、脳からの予測信号が統合的に検討されて私たちの主観的感情が生じるというわけです。これが感情の正体です。

というわけで、今回は以上です。

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