【第二言語習得理論】なぜ日本人が英語を習得するのは難しいのか?

今回の記事では、

・なぜ英語学習は難しいの?
・英語学習に成功するには?
・大人が英語学習するには?

こういった疑問にお答えします。

 

この記事を書いている僕は、国立大学院で心理学を専攻しています。
過去に外国語学部言語コースを修了しています。

なぜ英語学習は難しいのか?

日本人が英語を習得するのが困難な理由は下記のとおりです。

・言語間の距離
・言語転移

日本人は英語を苦手とする人が多いです。

勉強が嫌いな人が多いからなのか?というとそうではありません。真面目に学習に取り組んでも英語の習得は難しいのです。

なぜでしょうか?

それは日本語と英語の言語体系に大きな距離があるからです。これを言語学では「言語間の距離」と呼びます。日本語と英語の文法構造を考えただけでもその違いは明確です。

日本語   「S・・・・・V」
英語     「SV・・・・・」

日本語はS(主語)のあとかなり色んな修飾語を挟んでやっとV(動詞)がきます。
結論までがめちゃくちゃ長いです。

一方、英語はS(主語)の後、すぐに動詞(V)がきます。結論がすぐに出ます。

僕が学校で子どもたちに両者の違いを教える時は下記のような告白の例を使っています。

 

✔︎日本語の例

僕は(S)君と初めて出会ったとき、困っている〇〇さんに君が笑顔で自分の教科書を貸している姿を見て、その素敵な笑顔に惹かれて・・・(以下略)・・・好きです(V)

 

✔︎英語の例

私は(S)好き(V)です。あなたのことが。なぜなら、君が困っている〇〇さんに自分の教科書を貸している姿を見て、その素敵な笑顔に惹かれたからです。他にも・・・(以下略)

 

英語だと先に「好き(V)」と言ってしまった後に、なぜ「好き」なのか理由を説明します。
二言聞けば言いたいことがわかりますね。

要するに構造が似ている言語は習得しやすく、違いが大きければ大きいほど習得は難関になります。

ちなみに日本人が習得しやすいのは言語構造が似ている韓国語、もしくは漢字を使い言語表現が近い中国語だと言われています。

また、言語学では、「言語転移」というものがあり、母国語が第二言語習得に影響を与えることが知られています。ちなみに第二言語習得を促進する転移を「正の転移」、逆に習得を難しくする影響を与える転移を「負の転移」と呼びます。

言語転移には条件がある程度存在しており、学習初期にスピーキングの強制をされると負の転移が生じやすくなることなどが知られています。

さらに文化的な影響も第二言語習得に影響を与えます。

例えば、日本人は褒められたら「いえいえ、まだまだですよ」なんて謙遜しますが、アメリカ人はそのまま「ありがとう」と受け取ります。

このような現象は専門的には「語用論転移」と呼ばれ、言語転移の一種とされています。
「語用論転移」は単語や文法ができていても第二言語習得の妨げとなる可能性があります。

外国語学習に成功する要因

外国語学習に成功する要因は下記の3つだと言われています。

・年齢
・適性
・動機付け

年齢

まず第二言語習得において年齢は大きな要因になります。
第二言語習得は大人よりも子どもの方が容易です。

有名な仮説は臨界期説です。

つまり、言語習得には特定の獲得時期が存在し、その一定の時期をすぎると習得が著しく困難になるという説です。年齢が早い段階の方が第二言語を習得しやすいという点は多くの研究者の間で一致している一方、臨界期の存在については疑問視する研究者もいます。

なぜ子どもの方が容易に外国語を習得できるのかについては様々な説がありますが、近年有力なのは「母国語によるフィルター」説です。大人になるとほぼ完璧に母国語が身につき、その母国語の使い方が第二言語の習得を妨げてしまうという説です。

適性

外国語の習得には明確に適性があることが知られています。つまり、外国語習得に向いている人と向いていない人が存在するわけです。

アメリカでは「外国語学習障害」というものも認められつつあります。
これは他は問題ないが外国語だけできないという人が認定されます。

これまでの研究の結果、外国語習得の適性は以下の4点であることが示されています。

・音に対する敏感さ
・文法に関する敏感さ
・意味と言語形式との関連パターンを見つけ出す能力
・丸暗記する力

これらの適性を測定するMLATという適性テストも開発されており、アメリカを中心に使用されています。

動機づけ

日本人が英語ができない1つの大きな要因が動機づけの弱さにあるとされています。
色々細かいことは言われていますが、要するに日本人は英語がなくても困らないことが最大の理由です。

日本は科学が発達している他、メディアも発達しており、ほとんどの最新の英語情報は翻訳されて日本語で理解することが可能です。

一方、フィリピンやインドは発展途上国であり、英語ができないことが直接、経済的・社会的不利益につながります。英語を学習する動機づけが全く異なるのです。

英語を習得するためにできること

外国語学習に成功する要因は、①年齢、②適性、③動機づけ、であることがわかりました。

子どもなら英語を身につけるために様々な方法論がありそうです。

しかし、この記事を見ている多くの人は大人でしょう。
大人になってからでも期待できる成功要因はどれでしょうか?

言うまでもなく「動機づけ」ですね。

年齢を若返らせて臨界期を取り戻すことはできませんし、外国語学習の適性を今から変えることはできません。大人が変えられるのは「動機づけ」です。

言語学の視点から見たとき動機づけには2種類あります。
「統合的動機づけ」と「道具的動機づけ」です。

「統合的動機づけ」とは映画に関する関心など、その言語文化への興味が外国語学習に有効であるという動機づけ仮説のことです。

一方、「道具的動機づけ」とはTOEICをとることで就職に有利など実利があることで外国語学習への意欲が高まるという動機づけ仮説です。

ざっくり言うと、「文化への関心」か「実利への関心」かのどちらかで動機づけが高まるということです。

いずれの「動機づけ」も外国語学習を促進することが知られています。ただ、道具的動機づけは短期的、統合的動機づけは長期的であり、統合的動機づけの方が好ましいとされています。

ちなみに、これは「内発的動機づけ」と「外発的動機づけ」の関係に等しいものであり、心理学的にも正しいと言える説明です。

次に具体的にこれらの動機づけをどう活かしていくかを考えてみましょう。

まずは自分が英語を学習したい動機は「文化に対する関心なのか?」それとも「実利なのか?」ここをはっきりさせた方が良いですね。

文化に対する関心が動機づけとなっている場合は、その文化に関心がある限り放っておいてもモチベーションは維持されるでしょう。一方、実利が動機づけとなっている場合、維持は短期的です。

そこで、入り口は実利の動機づけで、徐々に興味の動機づけへとシフトしていくのが良いでしょう。
最初はTOEICなどの資格をとるためで構いませんが、少しずつ英語本来の興味深さにも触れていく感じですね。

外国語学習の戦略

文法中心方式 vs 口頭練習方式

ちなみに具体的な学習方式についてもおもしろいことがわかっています。

まず文法中心方式の学習か口頭練習方式かについてです。

結論を言うと、IQの高い学習者にとっては文法中心方式の学習が、逆にIQがそんなに高くない学習者にとっては口頭練習方式が効果的であることが示されています。

学習者の能力にあった学習方式を取り入れることで効率よく学習することができます。

言語習得の方程式

言語学者の研究により、人間が言語を獲得するメカニズムがわかってきました。
結論を言うと重要なのはインプットです。

言語習得は下記の方程式で獲得されます。

・言語習得=インプット + アウトプットの必要性

言語をインプットし、かつそれを使う必要性がある時に言語は獲得されやすくなります。
ややこしいのですが、厳密にはアウトプットに関しては「必要性」が重要なのであって、それを実際にアウトプットすることは必ずしも必要とはされません。もっと言うと、アウトプットの準備が大切だということです。

具体的には頭の中で、言葉を使おうと準備して繰り返している段階(リハーサル)が言語獲得に重要であることがわかっています。インプットを行い、同時に「アウトプットの必要性」を自分に課すことで言語は獲得されるのです。

効果的な外国語学習法

効果的な外国語学習法として様々な方法論が言われていますが、その中から代表的なものを3つ紹介します。

①分野を絞ったインプット
②例文を暗記する
③パラフレーズ

①分野を絞ったインプット

英語を習得しようとする際には、自分の専門分野を英語で学習することがおすすめです。

例えば、自分の専門が心理学ならば、英語で書かれた心理学論文や書籍を読んだりすることが有効です。
あるいは音声や映像でも構いません。

これは「有意味学習」に関係しています。
「有意味学習」とは自分の既存の知識に結びつける学習のことです。

つまり、もともと詳しい分野ならばその知識に結びつけて英語を理解できるので、習得が速くなるというわけです。

②例文を暗記する

英語に限らず言語というのはある程度フレーズが決まっています。

そのため、よく活用される例文を暗記することで効率的に英語学習を行うことができます。

例文を覚えていればその中の単語を入れ替えることで応用が効きますし、何より形式的な崩れを少なくして学習していくことが可能です。

③パラフレーズ

これは言いたい単語や文章が出てこないときに、異なる言い回しで伝える方法論のことです。

ある文章を見たとき別の英語で言い換えられないか?と考えてみるのも効果的です。

外国語学部ではわりとこのパラフレーズを行う練習をさせられました。

【コラム】 バイリンガルのメリット

2つのネイティブ言語を持つ人をバイリンガルと言いますが、バイリンガルになるためには幼少期に外国語環境で育つことに加えて、そこで一定以上の言語の使用があったかどうかが関係するとされています。

バイリンガルのメリットは色々ありますが、認知機能が高まることと、認知症発症の時期を普通の人の平均で4年以上遅らせることができることの2点が研究で示されています。

また、インターナショナルスクールに通うことは、うまくいけばバイリンガルになりますが、一方で母国語・第二言語への負の影響が出る場合もあるとされています。

参考文献

外国語学習の科学 第二言語習得理論とは何か?(2008). 岩波書店

「色々勉強してきたのに英語ができるようにならない!」という人は、今までの勉強法やプログラムが第二言語習得理論から外れていたことが原因です。英語は外国語です。紹介してきた通り外国語には習得の理論が明確に存在します。それが第二言語習得理論です。なので、第二言語習得理論に沿った勉強をすれば英語は習得できます。

この記事を書くにあたって僕もいろいろ調べましたが、現在、日本で第二言語習得理論をベースにしたプログラムは「SPTR(スパトレ)」しかありません。開発者は参考文献で紹介した「外国語学習の科学」の著者である白井恭弘氏です。

そもそも言語学に重きが置かれた英語学習プログラムは意外と少ないものです。しかし、言語学はその名の通り言葉を研究する学問なので、言語学研究から外れた英語学習プログラムに効果が期待できないのは明白です。

「今まで英語を一生懸命勉強してきたけど身につかなかった」という方は、第二言語習得理論に基づいた英語学習プログラムを試してみるのも1つの手だと思います。

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というわけで、今回は以上です。

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