鼻を触ると嘘をついている?

心理に興味がある人なら、誰もが一度は聞いたことがあることだと思いますが、よく聞くこの話は本当でしょうか?

ある程度心理学を学んだ人なら、「嘘だよ」と自信を持って言うでしょう。

Ryotaさん、またそんな一般向けの話をしちゃって…なんて思うかもしれませんね。しかし、この話は半分嘘で半分本当です。

半分嘘というのは、嘘の指標は見つかっていないからです。

嘘にまつわる分野は、虚偽検出として知られていますが、学問的にはマイナーです。

虚偽検出の分野の研究によると、ピノキオの鼻のような嘘の指標はいまだに見つかっていません。

例えば、「鼻を触る=嘘をついている」ということであれば、単純でわかりやすいのですが、それはないということです。

一方で、半分本当というのは、人は緊張状態の時、鼻に多く血流が集まることが研究でわかっているからです。

嘘をついている人は、プレッシャーを感じています。

これは専門的には認知的負荷と呼ばれています。

「自分の嘘がバレていないだろうか?」
「もしバレたら自分はどうなるだろうか?」

などの重圧に耐えながら嘘をついているのですから、嘘をついている人がプレッシャーを感じるのは当然でしょう。

そして、プレッシャーを感じる時、人は緊張状態になりますから、鼻を触っていたら嘘をついている可能性はあるとも言えます。

これが半分本当だと言った理由です。

 

嘘を見抜く難しさ

嘘をついているから、緊張状態にある。

緊張状態にあるから嘘をついている。

この説明はとてもわかりやすいですが、嘘を見抜くのはそんな単純ではありません。

緊張状態にあるということは、確かに嘘をついている確率が高いと言えます。しかし、問題は、緊張状態は嘘以外でも現れるという点にあります。

例えば、その人は嘘をついているか否か以前に、人と話すのが苦手で、人と会うと緊張状態になる人なのかもしれません。

そうであれば、現れた緊張状態は、個人のパーソナリティー(性格)のせいであって、嘘をついているからではない、ということになってしまいます。

あるいは、目の前の人が苦手なタイプな人で、緊張状態が高まったのかもしれません。

つまり、「この緊張状態が何によってもたらされているのか?」という点まで見ていかないと、相手が嘘をついているかどうかの判断はできないということです。

巷に溢れる本には「鼻を触る=嘘のサイン」みたいなことが平気で書いてありますが、実際には、嘘を見抜くのは膨大な研究でも結論が出ないほど難しいことなのです。

 

嘘の手がかりは文脈にある

「相手が緊張状態にあるかどうか?」

これを見抜くのは、確かに重要です。

しかし、もっと重要なのは文脈です。

例えば、彼氏のスマホを偶然見たら、通知画面に見知らぬ女性からハートマークが大量に送られてきているところを見たとしましょう。

そして、そのことを彼氏に問い詰めた時に、彼氏が「ただの友達だよ」と言いながら、鼻に手をやったら嘘をついている確率が高くなるでしょう。

これが文脈です。状況と言っても良いですね。

このように単に嘘のサインとなり得るしぐさが出たかどうかだけではなく、「どのような文脈(状況)で、そのしぐさが出たのか?」も、嘘を見抜く上では欠かせない要素なのです。

嘘の手がかりは文脈にあるのです。

 

ベースラインと嘘

さて、虚偽検出の研究は世界的に行われていますが、現時点で概ね有効性が示されている嘘の見抜き方を紹介しましょう。

それがベースラインを使うという方法論です。

ある人が先ほどの浮気の例のように、高確率な文脈の中で「鼻を触る」というしぐさが出たとしても、仮にその彼氏が普段から鼻を触る癖がある人だったらどうでしょうか?

文脈が確実であっても、その「鼻を触る」というしぐさは、緊張から来たものなのか?、それとも、ただの癖なのか?、区別がつきませんよね。

そこで、役立つのが、「あらかじめ相手のベースラインを知っておく」というものです。

人は誰しも何かしらの癖を持っています。

「普段、どんな癖があるのか?」

これを見極めることで、嘘を見抜ける確率が格段に上がります。

・瞬きは1分間にどれくらいするのか?
・どんな単語をよく使うのか?
・声のトーンはどうか?

など、普段の様子をしっかりと観察し、ベースラインカルテを作っておきます。

こうすることで、普段のベースラインと違うパターンが現れた時に、「おかしい」と気づくことができます。

 

見抜かなくて良い嘘もある

虚偽検出を極めると、人が色んな場面で嘘をついている様子がわかるようになります。

そして、その中には、相手のことを思った嘘もあります。

例えば、「髪切ったんだけど、どう? 似合ってる?」なんて近づいてきた人が、全然似合っていなくて酷い状態だったとしましょう。

こんな時、「全然似合ってないよ」というと、相手は傷つくでしょう。

それを避けるために多くの人は、たとえにあっていなかったとしても、「すごく似合ってるよ!」と言うのです。

虚偽検出を極めていくと、このような嘘も見抜けてしまいます。

そして、「自分はお見通しだ」と少し自慢気に感じるかもしれません。

しかし、そんなものを見抜く意味はありません。

それを指摘したところで、ただの失礼でしかないですよね。

ですから、見抜かなくて良い嘘だと感じたなら、そっとしておくことです。

世の中には、見抜かなくて良い嘘もある。

どうかこれから虚偽検出を極めていこうとしておられる方は、この言葉を頭の片隅に置いておいてください。

 

<参考文献>

アルダート・ヴレイ(2016).  嘘と欺瞞の心理学 福村出版

村井潤一郎(2013). 嘘の心理学 ナカニシヤ出版

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です